~業界ニュース【投資不動産流通協会】~投資用不動産と気候変動リスク

2022年06月13日

投資用不動産と気候変動リスク

近年、2019年8月「九州北部豪雨」を筆頭に2020年7月「令和2年7月豪雨」、2021年7月「熱海市伊豆山土石流災害」、2021年8月「集中豪雨」と2~3年の間に豪雨や土砂災害などの大規模な自然災害が相次ぎ、日本各地で大きな被害をもたらしています。

このような災害は全国で毎年のように起きており多くの物件が被害に遭っているため、不動産投資家は気候変動によるリスクも考慮した物件選びが必要になりつつあります。

気候変動リスクとは


出典:全国地球温暖化防止活動推進センター

気候変動リスクとは地球温暖化や天災などの気候変化がもたらす「影響」を意味し、金融安定理事会(FSB)の要求を受けて設置されたTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)が行っている「気候変動による財務への影響の開示」を求める活動をきっかけに全世界に広がりつつあります。

一部の国では、開示を義務化する動きが出てきており、日本では、2019年5月に経済産業省・金融庁・環境省主導のもと取り組みが開始され賛同企業が増えていきていることから日本においても関心が高まりつつあります。

不動産における気候変動リスク

TCFDが公表した「最終報告書:気候関連財務所法開示タスクフォースによる提言」によると気候変動による財務上の影響は、環境変化への適応時の法律や政治等の変化に伴う「移行リスク」と「物理的リスク」とに分けることができ、「物理的リスク」は以下のように、2つのリスクに分けることが可能です。

・急性リスク:台風や豪雨などの異常気象や洪水が激甚化することによるリスク
・慢性リスク:海水面の上昇や平均気温の上昇などの長期的な変化によるリスク

不動産における物理的リスクは、自然災害による建物の損傷や一過性の稼働率低下などの影響が挙げられますが、これから物理的リスクが高まれば物件取得時のリスクへの考慮や、物件の保有者には建物への設備投資などが求められる可能性があります。

特に日本は古くから災害大国とされていますが、2018年にはフィリピン・ドイツと並び異常気象による被害が最も大きかった国として挙げられており、度重なる自然災害によって2018年度の災害保険の保険金支払いは約1.6兆円に上り、前年(2017)の支払い額の8倍となりました。

その他にも慢性の物理的リスクとして、海水面上昇による沿岸部の価格下落や気候変化による管理・運営コストの上昇などが想定されます。

気候変動リスクは重要テーマへ

国土交通省は2020年に宅地建物取引業者に対し、不動産取引時の水害ハザードマップを使っての対象物件のリスク説明を義務化するなど不動産業においても対応が求められています。

また、自然災害の多発により支払保険金が増えたため、損害保険料率算出機構は2022年10月に個人向け火災保険料の目安となる「参考純率」を全国平均で過去最大の値上げ幅となる10.9%上げると発表しました。

自然災害のリスクとして一番に上げられるのは地震や台風などによって建物が全壊・半壊しても「ローンは残る」ということです。
ローンを利用して物件を購入し、返済中に災害によって所有物件が全壊・半壊したことで家賃収入が得られなくなっても返済が免除されるわけではありません。

リスクに対応するためには「自然災害に強い物件を選ぶ」「自然災害を受けにくい場所を選ぶ」などが考えられます。
自然災害に強い物件を選ぶ際のポイントとしては、新耐震基準に適合している建物であることや、排水設備や防潮板等の設備があること等が挙げられます。

次に自然災害を受けにくい場所を選ぶためのポイントとして物件の所在地周辺で災害への対策がされているか、ハザードマップ等を活用して浸水や土砂災害などの発生リスクを知ることが大切です。

立地がよくても災害リスクがあることが分かれば、事前に対策をすることができ将来的に被災した場合に被害を最小限に留めることが可能です。

また、購入時においてはハザードマップが用いられるようになったことで、以前は融資が下りていた物件でも、現在では浸水リスクの高い場所の場合、融資を断られることがあるなど金融機関の融資体制にも変化が生じています。

このため、ハザードマップの影響は物件価格にも及ぶ可能性があり、好条件の物件でもハザードマップでリスクの高い立地にあると、物件の査定や売却先が見つからないなど、運用中だけでなく手放す際にも影響を及ぼす可能性があります。

これまでの不動産投資は「物件価格」「利回り」「立地」など収益に関わる部分に注目されがちでしたが、これからは「災害に強い・受けにくい」物件を選ぶことがポイントとなるかもしれません。